きみが見た光
「私が幸せになることが、あの人の願いなんだって教えてくれたの」

俺は、彼女の言葉に眉をひそめた。

「記憶を無くしてる間に、どっかで頭を打った?」

理解に苦しむ、というのはこういうことを言うのだろうか。

誰にそんな都合のいいことを悟られたんだ?

"死人に口なし"という言葉を知らないのだろうか。

俺は、笑いことすらもできなかった。

すると、奈緒は激しく首を振る。

「私が記憶を取り戻したきっかけは、健が私に逢いに来てくれたからなの。3年前のクリスマスよ。私が夜中に彷徨っていたら、彼は私の前に現れて、"幸せになれ"って言ってくれたの…! "俺は消えたりしない、お前の心の中で生き続けるから"って言ってくれたのよ!!」

奈緒は、涙で顔中を濡らしていた。しかし彼女が必死でそんな馬鹿なお伽話を語ろうとしても、俺には到底、理解することができない。

イライラが募るばかりだった。



< 56 / 161 >

この作品をシェア

pagetop