きみが見た光
俺は、今しがた終えた会話よりも前になされた会話を思い出していた。

「最近、あの子もやっと就職が決まって働いてるわ。学校で、音楽を教えるんですって」

飲み物の注文を済ませ、ウェイトレスがテーブルから離れていったのを見計らうように、奈緒のおばさんは口を開いた。

俺は何も答えず、ただその様子を見ていただけだった。

嬉しそうに話すおばさん。

…よぉく知ってますとも
うちの学校だもんな、あいつの職場は

俺が無反応さに、残念そうに笑う。そして、彼女は頭を下げたのだ。

「あの時は、本当にごめんなさい」

どれぐらいだろうか。

深々と頭を下げるおばさんの額は、今にもテーブルに付いてしまいそうなほどだった。



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