きみが見た光
「あ、あの…」

周りの客の視線を一気に奪うおばさんのその行動に、俺はたじろいだ。

ちょうど注文していたコーヒーがテーブルに届いた。

おばさんの様子を怪訝そうな顔をして、ウェイトレスはテーブルにコーヒーを二つ置いた。

「顔、あげてください。注文したやつ、来ましたし…」

俺は、アタフタしながらおばさんが直るように窘める。すると、彼女はゆっくりと顔をあげ、伏し目がちに元の姿勢に直った。

「あなたが、私たちを恨んでいるのは理解しているつもりよ。でもね、あの時は、あぁするしかなかったの」

そう言いかけたのと同時に、俺達は目の前のコーヒーに手を付けた。俺はそのままブラックで飲むに対して、おばさんは一つだけミルクを入れて掻き混ぜる。

琥珀色だったコーヒーがミルクと混ざり合う。その様子を見つめながら、おばさんは話を続けた。

「あなたが記憶をなくした奈緒にいつも会いに来てくれた時、主治医の先生から無理矢理思い出させようとすると、どんどん思い出す恐怖に襲われて、自傷行為に走るかもしれないって言われてて…」

え…?

「だから、奈緒に会わせなかったの。あの時は私も必死で、娘のことしか考えられなくて… きっとあなたを傷つけてしまっているのだろうって思っていたわ…」



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