きみが見た光
あの時、この人はこんなに落ち着いて話をする人ではなかった、と俺は記憶している。

とてもヒステリックで、訪ねるといつも疎ましく俺を見て、怒鳴り散らしながら追い返すのだ。

あの時の俺は、訳を知りたかった。

どうして会わせてもらえないのか?
どうして話をさせてもらえないのか?

…今なら、少し解る気がした。

一切の記憶をなくした娘。

その娘にどう接すればいいのかなんて、たとえ気の知れた家族にでさえも、きっと困難なことだったのだろう。

しかし、そうだとしても、俺には納得ができないのだ。

どうして受け入れられない?
それはやっぱり、こどもが嫌なことから逃げるのと同じじゃないか。

俺は、それがどうしても許せなかった。



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