きみが見た光
「ねぇ、真白くん?」

白いカップを、ソーサーに置き、おばさんは俺の目を真っすぐに見た。

「奈緒は、好きな人を亡くすの、健くんが初めてではないの」

俺は、その言葉に、顔をあげた。

「あの子の父親」

おばさんは、遠い目をして窓に顔を向けた。

「小学校の入学式の時だった。仕事で忙しかった主人は、学校の後に予約していた店で合流する予定だった。その店の近くの交通量の多い交差点越しに父親に呼ばれたあの子は、嬉しくて道路を渡ろうとして、車に轢かれそうになったの。あの人はそれを庇ってね… あの子、すごくお父さん子で… まだ親の愛が欲しい盛りの時よ…」

おばさんは、また俯いて目を閉じた。

「あの子の心に、ひとつ、闇ができた。ずっと自分を責めて生きてきたの。いくら、『あなたのせいじゃない』と説明しても、私はあの子の心の闇を消してあげられなかった。それから数年経って、高校で健くんと出会ったの」



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