きみが見た光
「健くんはあの子にとって本当に特別だったの。でもまた自分のそばから、愛しい人が居なくなった…  今度もまた自分のせいだった。あの時、あの子の心が壊れてしまったの。どうしようもないほどに…」

壊れた器では、砂を受け止めることはできない…

"最初から何も無かった"

そう思わなければ、生きることができなかったと…

俺はふと、外から見た奈緒の目を思い出した。あの濁っていて淀んだ瞳を…

あれは、心を失った奈緒――



多分俺は、あの時解っていた。

誰が一番兄貴の死を悲しんでいたのか。

うちの両親よりも

罪の意識を拭いきれず、最愛の人を亡くしたのは、奈緒…

俺は、悔しかった。
でもその気持ちに気付きたくなかった。

記憶を無くしてしまうほど兄貴を愛していた奈緒を、俺は愛していたんだ…





< 74 / 161 >

この作品をシェア

pagetop