きみが見た光
「もぉー、何ボーッとしてんの」

彼女、はっきりと返事をしない俺に痺れを切らしたのか、無防備の俺の背中を平手で叩いた。

ワイシャツを通して、振り子の原理で飛んできた彼女の手の平は、俺の背骨を粉々にするかのような力であった。

きれいな音が辺りに響くのと同時に、俺の悶えた情けない声が漏れ出してしまう。

…この、どS女め

彼女の顔を俺は横目でじろりと見つめていた。しかしまったく悪びれる様子の無いこのどSは、声に出して笑っていた。

はぁ、とあからさまに溜息を吐く。

「で、最近野崎はどうなんだ? 役に立ってるのかね」

俺は叩かれた背中を摩りながら、適当に彩夏に尋ねた。

「すごい効果だよ! 助かってる」

適当に振った話題でも、彩夏はちゃんと答えてくれる。しかも、笑顔で。それが余計に俺を白けさせるんだけどな…



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