きみが見た光
「あ…」

裏門にあった人影に気付いた奈緒は、それが誰か解ると、気の抜けた声をあげたのだ。

「人に見られたら面倒だから、早く乗って」

後ろの席に早く座るように指で差して促す。

「…って、自転車?」

「早くしろよ」

痺れを切らした俺は、彼女の腕に手を伸ばして、強引に引っ張る。驚きを隠せない彼女は…

「あ… うん」

少しだけ、恐怖から解放されたかのように、彼女の表情に光が射すのが見えた気がした。

彼女が後ろに乗って、腰に手を回したの確認すると、俺は歯を食いしばりながら重いペダルを漕ぎはじめる。

…案外、重いな

俺は一瞬だけ、笑みが漏れた。

ママチャリをフラつかせながら何とか門を抜ける。そして俺は全身に風を受けながら、目の前の長い坂道を降りはじめた。



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