きみが見た光
4月の夜は、まだ気温が下がり、流れる風は少し冷たくて肌寒い。それなのに、ふたりが触れ合っている部分は、熱を帯びていた。

多分、それは俺の体温。

ドキドキしている鼓動を悟られまいと、力を振り絞ってペダルを漕いでいるからだ。

「…俺がそばにいることで安心できるなら、いてやるよ」

「…え」

「えっ、ってなんだよ。それとも、橘の方がいいってか」

「そんなこと… でもね、橘先生といると、何だかいつもより留守電の数が少ない気がして」

奈緒は、妙に明るい口調で言ったのだ。

…気に入らねぇな

「何でそんなに橘先生のこと、嫌うの?」

俺の出す"気"で、何かを感じ取った彼女は当たり障りない言い方で尋ねてきた。

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