『霊魔伝』其の弐 火の章
零次朗と祖父岩倉武寅は、和歌山県の小さな漁村にいた。

三方山に囲まれ、わずかばかりの人が細々と漁をしている村だった。

その村の中では大きな方に数えられる家が、武寅の家だった。

「零次朗よ。随分捜したぞ。訳があって時間があまりなかったこともある。早急に本当のことを話さねばならぬ時期が来ているのじゃ。」

武寅は静かに切り出した。お茶をすすると零次朗の顔を見た。

「それにしても、父親に似ておるの。」

「じいちゃん、俺はいったい何者なんだ。何で俺は捨てられていたんだ。」

零次朗は本当のことが知りたかった。
つい先日までは幸せに暮らしていたのに、突然祖父と名乗る武寅にこんな辺鄙なところまで連れてこられたのだ。

「零次朗よ、おまえはここで生まれたのじゃ。そしておまえの両親は、まだ生きておるぞ。じゃが、訳があっておまえに会うことはできんのだ。」

「俺の両親が生きているって。それはどういうこと。じゃあ何故俺は・・・。」

「話せば長くなる。そしてそれは、我が一族が背負っている宿命でもある。代々我が一族岩倉家には、特殊な能力が能力を持って生まれてくるものがいた。何故そんな能力を得るのかはわからぬが、その能力はとても力のあるもので、その力を人に知られまいと長い間隠してきたのじゃ。なぜならば悪いことに利用されては、大変なことになるのでな。そして一族は能力を隠して生きることを選び、ここでずっと暮らしてきたのじゃ。」

「その特殊な能力とは一体どういう力?。」

「零次朗よ、おまえには、他の人と違うところはないか。」

「あるよ。俺、変なものが見える。幽霊とかではないけど。そしてその変なものが、話しかけてくる。嫌ではないけど、うるさいときもある。」

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