おしえてください、先生。
でも、あの男の人が痴漢からは助けてくれたから、大丈夫。
痴漢に合わなかったわけじゃないけど……。
「それならよかった。さ、カバン置いて手を洗いなさい」
「うん」
優しくいうお母さんに返事をする。
お母さんは思ったことをはっきりいう性格だけど、裏表がなくて優しい。
今回の家庭教師の件も、私のことを思ってのことだってわかってるから……。
わかってるから、強く嫌がることができなかった。
家庭教師の先生……優しい人だといいな……。
お母さんの知り合いだから、変な人ではないと思うけど……。
カバンを自分の部屋に置き、洗面所で手を洗い終わった頃、インターホンが鳴った。
――ピンポーン。
「はーい」
お母さんが玄関へ向かう。
私もお母さんの背中に隠れるようについていく。
「いらっしゃい、雄悟くん。道、迷わなかった?」
「はい。大丈夫でした」
「それなら良かった」
低い、男の人の声。
あれ、この声……聞いたことある……。