性別≠不一致
時間にしたら数分も経っていないかもしれない。もしかしたら十秒も経っていないかもしれない。
それでもこの沈黙は、俺にとっては何十分にも何時間にも感じられて。
まるで時が止まったような。この空間だけ世界から切り取られた錯覚に陥っていた。
足元がぐるぐると回って気持ちが悪い。
少しでも気持ちを落ち着かせようとコーヒーカップに手を伸ばすと「ほんまは」とゴウさんが口火を切った。
「ほんまは、竜司に秘密がバレたくないだけやないか?」
竜司くん?
なんで竜司くんが出てくるんだろう。
当り前じゃないか。マミさんにもマスターにも知られたくないんだから、竜司くんにも知られたくないに決まってる。
寧ろ、竜司くんだけには絶対に知られてはならない。
「そりゃそうですよ。マスターは年気も入ってるし、マミさんは女性だから受け入れてくれる可能性は高いけど……」