性別≠不一致

入口に立つその人物は、紛れもなく渦中の人物。


聞かれた? もしかして聞かれた?


聞かれていないと信じたい。というか、そう信じないと俺の心臓が持たない。


だが俺の必死の願いは無情には崩れ去る。


無言のまま、顔を伏せたまま扉を閉める千秋さん。


何事もなかったかのように去って行くその背中は、どことなく憂いを帯びていて。


あの様子からじゃ、ほぼ確実に俺の台詞が聞かれたようだった。


俺なんて言ったっけ? 「大好きだぁあああ!」とか言っちゃったっけ?


あんな大声で、いくらマミさんに煽られたからって、よりにもよってなんで「大好き」だなんて言っちゃったんだよ俺の馬鹿ぁ……!


「好きだ!」ならまだ誤魔化せたかも知れない。


静かに「大好きだ」と言えば、まだなんとか言い訳のしようもあったかも知れない。


でもあれはダメだ。大声で「大好きだぁあああ!」なんて叫んじまったら、もう取り返しが付かねーじゃねえか。
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