性別≠不一致

なんで竜司くんが……?


息を切らして肩を揺らす青年は、額の汗を乱暴に腕で拭うと俺の隣に腰かけた。


「たく、ばあさんなのに全力疾走するか普通?」


多分スピカに言ったのだろう。


言葉の意味を理解したのか、スピカはそっぽを向いて俺の足元に身体を伏せた。


身体の右半分の神経が、ぶわっと動き出したのがわかる。


犬嫌いなのにスピカまで連れ出して、一体なんの話があるんだろう。


別れ話とかやめてほしい。もう俺から身を引いたのだから、余計なことをして傷口を広げないでほしい。


「竜司くん……」


「俺さ、こう見えて甘ちゃんなんだよ」


竜司くんの口から別れ話を聞かされるのなら、自分から切り出そうと思った矢先のことだった。


言葉の意味が読み取れず、思わず「え?」と聞き返してしまう。
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