性別≠不一致

と、無理やり自身を鼓舞しながら皿洗いを続けると、カランッと入口のベルが鳴った。


「いらっしゃ……なんだ千秋か」


「おっす」


ベルと声に反応したのか、隅のベッドで寝ていたスピカは目を覚まし、小走りに千秋の元に駆け寄った。


いつもはクールビューティーな看板犬が、尻尾をパタパタ振って喜びを表現している。


すっかりスピカに懐かれたようだ。


あれから一週間近く経ったが、俺がシフトにいない間も千秋は店にほぼ毎日顔を出していたらしい。


毎日顔を合わせれば懐くのは当然だと思われるが、スピカは出来る看板犬だ。


スピカは来店した客に媚こそ売るが、それはマスター曰く営業と割り切っているらしい。


つまり接待なのだ。スピカは本当の意味で客に心を開いていない。


だからこそ俺みたいな犬嫌いの人でも、スピカだけは大丈夫なのだろう(触れないけど)


必要以上に接してこないし、相手との距離感を正確に測っている。
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