この声がきみに届く日‐うさぎ男の奇跡‐
―――数分後





薄暗くなった遠くの路地に、街灯に照らされた男と女の姿が見えた。


まだ顔を確認できないが、なにか言い合いをしている様子の2人。


多分、美代とヒゲ男だ


2人が近くまで来たとき、アパートの灯りでその顔がはっきりと見えた。


やっぱりそれは美代だった。


「美…代」


美代を見た瞬間


俺は思わずアパートの階段に身を潜めてしまった。


さっき事故に合った美代を思い出して胸がドクドクといっている。


死んでしまったはずの美代が…本当に生き返っている。


傷ひとつなく元に戻った美代の姿を見て、思わず涙ぐんでしまったのだ。


それに


どうやって美代に変わり果てた俺の姿を見せれば良いのかわからなかった。


だって今の俺は美代の知らない俺だから…


さっきの主婦と同じ視線を美代にも向けられることが怖かった。


「美代…」


俺は小さく小さく呟くと


そっと隠れた階段の壁から、美代とヒゲ男を覗きみた。


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