この声がきみに届く日‐うさぎ男の奇跡‐
丁度その時、土鍋から伸太郎の米が炊けたいい香りがした。


「ほら、美代運べよ」


「はいは~い!」


俺は土鍋の火をとめながら料理を運ぶ美代の背中を見た。


俺がこの世にいる間に


伸太郎から学んだことを美代に伝えたい。


美代には母親がいないから。


母親の代わりにはなれないけど俺が教えてやりたい。




料理を机に運び終えると美代と俺は手を合わせた。


「いただきます!」


そして美代はサラダを口に運んだ。


「ん?このサラダ…パパのと同じ味がする」


口をもぐもぐさせる美代。


俺は小さく微笑む。


「当たり前だ。それ伸太郎のを見て覚えたんだぞ」


「へぇ?マサルさんとパパってそんなに親しいんだ。なのに私、マサルさんのこと全然知らなかったなぁ」


美代は笑顔で味噌汁を啜りながら言った。


そんな美代に俺も味噌汁を啜る。


「美代が知らなかっただけで…俺は美代のことをずっと見てたぞ」


「え、そうなの?!」


「あぁ。美代が中学生ぐらいからよく知ってる」


「う、うそ~?それなんか恥ずかしい!」


美代は箸を口に入れて照れ臭そうに笑った。



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