この声がきみに届く日‐うさぎ男の奇跡‐
伝えたい
「マサルさん具合悪いみたいなんだ」
とある夜
美代は電話をかけながらゲージの木屑の中で伏せている俺を覗きこんでいた。
「…うん、いつもは家中走り回るのに最近ゲージからも出てこないの。ご飯もあんまり食べないし。病院連れてった方が良いかなぁ」
通話相手はどうやら伸太郎…
美代の親父らしい。
俺が美代への恋心を自覚して、ボスに諦めるしかないと言われてから
もう一週間が経っていた。
俺はこの一週間、何度も自分に言い聞かせていた。
諦める……
諦めるしかない。
俺はうさぎで美代は人間。
身分がどうとかそう言うレベルの障害ではない。
叶うことはもちろん伝える手段すらない恋。
だけど
何度もそう割り切ろうとしても
心というのは安易にコントロール出来るものではないらしい。
駄目だと理解しているからといって
好きな気持ちがすぐに無くなってくれるわけではなく
むしろ胸の痛みは悪化の一方で
俺は食欲もなくなり、ゲージの中で過ごすことが多くなっていた。
今はとにかく美代と関わるのが辛い。