この声がきみに届く日‐うさぎ男の奇跡‐
『おいヒゲ…いつまで寝ておるのだ…』
黒猫は呟いた。
「ゔ………?」
ヒゲ男は小さく唸ると薄く目を開いた。
「ぁ…れ……俺…?」
ヒゲ男は痛む体をなんとか起こすと、ゆっくりと辺りを見渡した。
ガランとした薄暗い廃墟には、ヒゲ男以外誰の気配もない。
視線の奥には美代が縛られていた椅子とロープ。
そして男が吸っていた煙草と灰皿と机。
腐りかけの床にはムカデのような虫が這っていた。
さっき見た黒猫の姿はもうない。
気のせい…だったかな?
ヒゲ男は首をかしげると更に呟いた。
「そういや俺…なんで生きてるんだ…?」
ヒゲ男は射たれたはずの胸元を見た。
ズキンズキンと鈍く痛み服には赤い血が滲んでいる。
確かに撃たれたはずだった…
至近距離ではないが、撃たれて助かる距離でもなかった。
なのに、なぜ――…?