この声がきみに届く日‐うさぎ男の奇跡‐
「お邪魔しまっす」
髪は暗めの茶色に明るいメッシュ。
緩めのジーンズに少し顎髭の生えた若い男。
そいつは足元の俺には気付いていないのか
美代を抱えたままズカズカと部屋に上がり込んだ。
『っ臭……』
横を通るときにひどく鼻をつく匂いがした。
伸太郎も酒を飲むとよく同じ匂いがしたが
こいつのそれは伸太郎のそれよりずっとキツい。
美代もこいつもかなり酔っているらしい。
俺は慌てそいつの後に続いてリビングへ行った。
「あれ?美代ちゃんベッドは?」
男は美代を抱いたままリビングにつながる寝室をぐるりと見渡す。
「あぃ!うちはベッドではなく布団なんれすよ~」
美代はふらふらしながら右手を額に当てて敬礼をした。
「あはは、美代ちゃん酔ってんなぁ。とりあえず水だ水」
男は美代を座らせるとキッチンから水を持ってきて美代に渡した。