この声がきみに届く日‐うさぎ男の奇跡‐
銀が飛んでいき――…
独り、美代の家である白いアパートに残された俺は
美代に会うことを想像して途端に緊張が増してきた。
俺は深呼吸をしてから
玄関にもたれるように座っていた体を、とりあえず起こしてみた。
「お…」
初めて2本足で立つ…
自分の足を見つめながら初めての割には全然余裕で立ててしまった。
そしてゆっくり顔をあげてみる。
まっすぐに続くアパートの通路には、いくつかの玄関が並んでいる。
それは見慣れた光景
なのに全く違った景色に見えるのは視点がいつもよりも高いからか。
次に恐る恐る片足を出してみる。
ぺたんと素足がコンクリートの通路につく。
ちなみに
山吹が俺に与えてくれたのは、人間の体と白いTシャツに水色のジーンズだった。
その姿のまま俺はアパートの外まで歩いてみた。
長い足が作り出す歩幅はうさぎのそれとは全然違った。
2~3歩踏み出すだけでぐんぐん進む景色。