【短】君が僕を忘れても、僕は君を好きでいる
「……波の音……聞こえるね」



君の小さな声が聞こえた。



「もう少し明るい時にくればよかったかな?」



僕はタバコの火を消し、君の肩を引き寄せた。



一瞬だけ肩を震わせ、僕を見上げる君。



「前にここに来たこと、イサムは覚えてる?」



「ああ、付き合ったばっかりの頃だったね」



覚えてるに決まってる。



忘れたくても忘れられるわけがない。



二人でふざけあって、大声で笑いあった想い出の海。



「あの時、二人ともビショビショになって、風邪ひいたよね」



「えっ、風邪ひいたのは、樹里菜だけだよ。樹里菜がはしゃぎすぎたから」



「あれ……そうだったっけ?」



あの時はたしかにあった君の本当の笑顔。
< 5 / 23 >

この作品をシェア

pagetop