選択
「お母さん!お子さんをこちらへ!」
「巧!巧!」
「君!救急に!急いで!」

医者に抱き抱えられカウンセリングルームを出ていく巧

私は医者の後を必死に追う
「お母さん!?お子さんはなにか病歴が!?」
「いいえ!いいえ!」
半ば泣きそうになりながら答える

「お母さんはこちらでお待ちください」
看護師に救急受付のドアの前で制止されその場に立ち尽くす
巧は医者と共にドアの中へ消えて行った

「巧・・」

昨日から咳がでてたぐらいなのに!
なんで?!
ただの風邪じゃないの?
あの様子は尋常ではない・・・
あぁ! 神様!
神様なんか今まで信じていないけど!
もしいるのなら!
助けて!
無事に巧を私に戻してください!

「仁美」
ふいに後ろから声をかけられ振り返ると旦那が呆然と立っていた

「大丈夫・・だよな?」

旦那の言葉に涙が出てきてうまく喋れない

「母さんが死んで巧まで・・・」

「そんな訳ない!」
自分でも驚く程の声が出た
「仁美・・」

思わず旦那の衿をつかむ

「だってだってだって・・・さっきまで元気だったじゃん!咳は少ししてたけど元気だったでしょ!人間咳ぐらいで死なないでしょ!?」
自分に言い聞かせているように泣き叫ぶしかない
「・・・」

「死なないって言ってよ・・・大丈夫って・・お願いだから!」

旦那が無言で私を抱きしめる
「俺も辛いんだよ・・」

旦那の言葉でまた涙がこぼれる

二人でひたすら救急のドアが開くのを待つしかない

時間の流れが今までの人生で1番遅く感じらるだろう

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