先見の巫女
《朱雀》


「…翡翠龍の言った通りだったな」


その言葉に晴明様は静かに頷いた。


「雛菊と翡翠龍の絆が消えた…それが記憶の消滅だったとは…」


晴明様は考え込むように顎に手を添える。


あれは…雛菊が消えてから数日の事。


―――――――
―――――
――――


「京の地気が淀み始めましたね…」


晴明様は目を閉じ、印を結びながらそう呟いた。


「…そうですね…
雛菊は…」


そう言いかけてすぐに口を閉じる。
今の俺達に、これは禁止語句だった。


「気を使わないでいいのですよ。…あなたも同じ傷を負ってしまったのですから…」

「…晴明様……」


それっきり二人に会話は無くなった。


互いに最も愛しい者をなくした傷は、深すぎて一生治る事はないのだろうと思う。


『我の…声を聞け……』


「…っ!?」


何かの声が聞こえた気がした。
晴明様に視線を向けると、晴明様は無言で頷く。


どうやら晴明様にも声が聞こえたみたいだ。






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