いい意味で
僕等は適当にマンガ喫茶かなんかで、始発まで時間をつぶせばいい。

部屋番号をフロントで聞き、エレベーターで上がっていく。
部屋に入ると、皆「遅かったぞ~!!」と楽しそうはしゃいでいる。
なんか少しイライラするが、こいつらには関係ないんだよな。
「ごめん。」と言って席に座る。

すると、りうがマイクを持ち歌い始めた。
今の僕には、楽しさも騒音に聞こえる。

かおりちゃんが「ヨシ君達何飲む~?」と聞いてくるが…
答えずに間が空くと、
若菜さんがかおりちゃんに話し始めた。
かおりちゃんが若菜さんに心配そうな顔をしてる。
そして僕の方を見て、なんとなく顔を作って相槌をうつ。

早く伝えればいい。そして、僕も今日を早く終わらせたい。
その間におんちゃんが、お前等ビールとカシオレでいいね?と勝手に注文してしまった。

なんだよ。

無理やり笑顔を作った智久が、ゆりかちゃんとりうに肩を組まれ踊らされてる。

地球の裏側じゃ。なんて良くいったものだ。
渋谷のすぐそこでも同じことが起きてるっていうのに。

さっき僕達は死にかけたんだ…謎を残したまま。

僕はボーっとしながら皆が騒いでるのを眺めている。
おんちゃんも僕を巻き込もうとちょっかいを出してくるが、
また作り笑いをして距離を置く。

そんな時間が流れ、酒が来た。
皆で乾杯をするが、ついさっきまではあんなに楽しかったのに…。

この狭い部屋で、僕は無理やり若菜さんと目をあわさないようにしていた。
本当は、こんな態度をとる事は違うと分かってるのに。

また歌が始まってしまった。いつ帰れるだろう。
なんだか待つのに疲れ、僕は部屋を出る。

エレベーターホールは外で、そこから渋谷の街並みが見える。
煙草に火をつけて、何も考えないように、今は何も思わないように。
遠くを見てボーっとしていると
ふと気配がして、後ろを振り向くと若菜さんが申し訳なさそうな顔をして立っている。
< 86 / 114 >

この作品をシェア

pagetop