いい意味で

僕は人間じゃなくなっていることを。
若菜さんと距離が縮まれば縮まるほど。


部屋に戻ると、皆はもう帰る準備を始めてる。
おんちゃんが｢若菜ちゃん体調悪いからこれでお開きで！｣と言ってくる。
「そうかぁ。」と僕はわざとらしくいい、また部屋を出る。

がやがやしながら一階に下りて会計を済ませる。
タクシーを拾うとこまで僕等は歩いていく。
かおりちゃんとゆりかちゃん。おんちゃんにりう。
まだその四人は酔っ払いながら、わいわいやっている。
若菜さんはその四人に絡まれている。

僕と智久は、少し距離を置いて歩いている。

そうだ。やっと今夜が終わる。
やっとだ…。

でも、僕に起こるかもしれないことを思い出すと溺れそうになる。
夢だと思いたいが、若菜さんの顔を見るたびに夢じゃないと知らされる。
浮かびそうになるたびむりやりかき消す。

そしてタクシー乗り場に着いた。

酔っ払っている４人はハグをしたりしている。
｢じゃあ絶対青森また行くからぁ！！また東京に遊びきなぁ！｣なんてりうは言ってる。
かおりちゃんとゆりかちゃんにもさよならを告げ、振らないわけにもいかず、若菜さんにも手を振る。

その時の若菜さんの寂しさそうな、なんともいえぬ表情をみると
またさっきの違和感を感じた。

なんだ…これ。

僕は胸に手を当てるが、皆はまだ走り出したタクシーにまだ手を振っている。

｢いやぁ！今日は楽しかったなぁ！！｣なんておんちゃんとりうは言っている。
そうだろうな。今日は楽しかっただろうなぁ。

智久を見ると、智久も複雑な顔をしている。

ふと、正気に戻ると、智久も同じ体験をしたんだ。
僕だけじゃない。
僕だけがあんな想いをしたんじゃない。

こいつの前では、少しはちゃんとしていよう。
じゃないと不安になるだろう。

｢じゃあ次はどこ飲みいくかぁ！！｣なんておんちゃん達が言ってきたので
僕も明るく、｢行くぞー！！｣っと智久の肩を組んで
僕等は居酒屋を探しにいった。

その時、目の端におじさんが映った。
その方向をみると、僕に手をあげている。