いい意味で
喉がヒリヒリする。味が良く分からないのは、若菜さんのことを考えてるからだろう。

実「前にも言ったがよ。若菜は悪い奴なんかじゃない。そして、もし自分が訳も分からずに殺されそうになったのに、お前にぼろくそに言われながらも、お前の身を案じたあの子の気持ち。本当は分かってるんだろ?」

僕は、胸が張り裂けそうになった。
頭と心が若菜さんへの想いで溢れそうになる。
そうだ。本当は分かってるんだ。

すると、急にまた違和感を感じた。
ドクン。ドクン。と。
僕は、また胸を押さえる。苦しいんじゃない。何か変わりそうなんだ。

そんな僕を見て、おじさんは「やっぱりな。」と呟く。

僕「何が…やっぱりなんすか?」
そういう僕に「水でも飲め。落ち着け。」と言われ。
僕はグラスの水を飲み干す。

そして、少しするとその違和感は収まった。

落ち着いた僕におじさんは言った
実「あのよ、俺が調べて分かったのはよ。そういう事なんだよな。」

僕「なんすかそういう事って。」
酒場特有のがやがやした声に消されないよう、僕は少し声を大きくした。

実「そんなデカイ声で言わなくて聞こえらぁよ。やはりな、妖怪から人間に輪廻交換した例ってのはよ、昔からあまり多くはねぇんだ。」

僕「はい…。」

実「でもなぁ、大体妖怪化する奴にある定義を見つけた。」
「なんなんすか?」僕は緊張して、泡の上に足を置いてるような気分になっている。

実「人間が妖怪を愛する場合だ。」

僕は「え?」と拍子抜けをする。
なんだ?それは。

僕「なんか…良くわかんないすけど…。」

実「お前を見ててやっぱり思った。お前が違和感感じ胸を押さえるとき、それは若菜を想っているときだ。」

僕「はぁ…」
思い出してみる。いや…今の…今のか?!
実「若菜に心が近くなるほど、近づくほど、お前は妖怪に近づく。」

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