一人こっくりさん
 
『じゃ、今夜メールするからね!』

 そう言って自然に立ち去ろうとする駿を、俺は慌てて呼び止めた。

「待て待て待て待て!」

『んぁ?』

 駿は間抜けな声を出して振り向いた。

「俺は“やる”なんて一言も言ってないんだが?」

 怖い訳じゃないが、面倒臭い。


『えぇっ!? 一緒にやってくれないの……?』


 そ、そんな上目遣いで俺を見ても無駄だからな……!


『ねぇ……しよ?』


 駿が身を乗り出し、俺との距離をさらに縮める。

 ……瞳をうるうるさせるな!
 女顔のお前がやると洒落にならないんだよ!


『あれぇ? 優、どーしたの?』

 男のくせに乙女なオーラ全開の駿を見て、クラスの数人の女子が黄色い声で騒ぎ始めた。

 人の気も知らずに……。


『ゆーうー?』


 駿の茶色がかった金髪が、風に揺られてサラリと俺の顔に触れる。

 ――髪が当たるってどんたけ至近距離なんだよ!
 このままじゃ埒があかない、というかだんだん近づいてくるし……くそっ!



「分かったよ、やればいいんだろ! そのサイトとやらはどこなんだよ!」

 もうヤケだ。
 ああ、俺って……。

『やったー! ありがとっ、優大好き!! サイト送るねー!』

 駿は飛び跳ねて歓喜の声をあげた。ついでに女子の奇声――というか喜声? もちょっと聞こえた。


 何というか、人生得しそうな奴だよな……。


 そして俺は、駿からサイトのアドレスを送ってもらった。
 このサイトを見つけるのにはなかなか苦労したらしい。なんでそこまでしてやりたいと思うのか、俺にはさっぱり分からないが。
 
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