ショコラ~恋なんてあり得ない~
ショコラ~恋なんてあり得ない~

1 ふざけんなよ、親父


 静かな音楽が流れる喫茶店のカウンター内。

マスターを務める父親がコーヒー豆を挽きながらポツリと呟いた。


「お前とマサが結婚して跡を継いでくれるんなら安心なのになぁ」

「はぁ?」


あたしはこめれるだけの軽蔑の感情をこめてそう返事する。


「ばっかじゃないの、父さん。マサには最近彼女出来たじゃん」

「知ってるよ。だから言ってるんだろ。俺はお前とマサってうまくいってるんだと思ってたのになぁ」

「最初っから好きでも付き合ってもいないわよ。白昼堂々夢でも見てるの? 大体、あたしはマサみたいな甘ったるい男、好みじゃない」

「……お前は本当に康子さんにそっくりだなぁ」


親父はわざとらしく溜息をつきながら、首のあたりを右手でさする。

黙っていれば渋い親父に見えるのになんて思うけど、事あるごとに離婚した母親の名前を出す姿はまさにヘタレ。

そもそも親父のせいじゃないのよ、とあたしはきつい眼差しを向けながらエプロンのリボンを閉め直す。




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