ショコラ~恋なんてあり得ない~
10 夏の新商品
新緑眩しい季節。
降り注ぐ日差しはもう夏のものと変わりない。
店の扉を開けると、甘い匂いが鼻をくすぐる。どうやらまだ親父が朝の仕込みをしているらしい。
「おはよ。いい匂いね」
厨房に一声だけかけて、店内の掃除を始める。
今日は花も買って来たから、窓際にこっそり置いている一輪刺しも模様替えしよう。
レジ前にも置いたらいいかも。
店内ディスプレイに関しては親父はあまり興味がなく、あたしが好きなようにやれるので楽しい。
そうやって片付けていると、マサがやってくる。
「おはよーございます」
「おはよ。今日は寝不足じゃない? 良い夜だったかしら」
「詩子!」
顔を真っ赤にして焦りだすマサ。
面白いったらないわ。
「あはは、昨日目撃しちゃったわよ、デートの帰り」
「な、お前その時間にはもう家に居るんじゃないのかよ」
「あらあ、あたしだってたまにはお約束くらいあるのよう」
「誰だよ。……ははーん。あの人か、上手いってんじゃん」
「違うもーん」