ショコラ~恋なんてあり得ない~
「ちょっとマサ」
「マスターがそう言うんだから頑張れよ」
「だってあたし」
反論しようとしたあたしに、マサの視線が飛ぶ。
普段おとなしい男に強気で見られると、たじろいでしまうのは何故だろう。
「いい機会じゃん。詩子だって本当は厨房の方やりたかったんじゃないの?」
「そんなことは……ないわよ」
ただ。
マスターの娘なのに、ウェイトレスしかできないことが情けないとは思っていた。
心の中を読まれているようで悔しい。
でも反論も思いつかなくてただじっと見つめるしかできない。
マサはふっと笑うとあたしに指を突きつけた。
「俺は負けないからな」
「なっ、あたしだって負けないわよ!」
売られたケンカを買ってしまうのは癖みたいなもんだ。
こう言われてしまったら引き下がれなくなってしまう。
「フラッペかー」
マサの方は、すっきりした顔で厨房に行ってしまう。
残されたあたしは、掃除途中の店内で途方に暮れるばかり。
試作品?
あたしが?
ホントにできんの?
「でもやるしかない」
負けず嫌いの自分の性格を、人生で初めて呪いたくなった。