ショコラ~恋なんてあり得ない~

 昼時の慌ただしい時間を終え、店内のお客様もまばらになった頃。
全ての注文を出し終えて、目を配りながらカウンター内に戻ると、自然に漏れ出るのは溜息。


「はあ」

「詩子さん、今日溜息ばっかりだね」


カウンターに座る宗司さんにそう言われて、なんとなく罰が悪くなる。


「ごめんなさい。お客様の前なのに」

「いや、なんか悩みごと?」

「うーん」


悩んではいるけど、それを果たして宗司さんに相談して良いものか。


「別に」


考えて返した返答はそれ。
甘えるのは苦手だし、大体この人に言ったところではっきりした意見が返ってくるとも思えない。


「今日のケーキおいしいねぇ」


宗司さんは気にした様子もなく、フォークを口に運ぶ。

呑気な人。
まあ、そのお陰で和むと言えば和むのだけど。



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