ショコラ~恋なんてあり得ない~
「やっぱり」
「え?」
「詩子さんは、この仕事好きでしょう」
「……え?」
思いがけない言葉をかけられて、あたしはそれ以上の言葉を失くす。
「ラーメン屋や居酒屋の方が好きって言ってたけど、……もちろんそれも好きなんだろうけど、『ショコラ』が好きなんだよね。
俺ね、毎日詩子さんからケーキの説明を聞くのが好きなんだ。
マスターのこだわりとか、合うドリンクの選び方とか。
作り手の気持ちまで伝わってくるようで、本当に聞いてて楽しんだよ。
それって、ただ慣れてるからじゃできない。
やっぱり、好きじゃなきゃ覚えられないと思う」
「それは……」
「多分、マスターもそれを分かってるから、詩子さんに考えろって言ったんじゃないの?」
ノートから視線を外して、ようやくあたしの方を見た。
その眼差しに、あたしは射ぬかれてしまったのだろうか。
力が抜けて、喉元から弱音が込み上げてくる。