ショコラ~恋なんてあり得ない~

そこまで考えて、彼はあたしの電話番号を知らない事に気付いた。

そうだ。
いつも店で会うからうっかりしてたけど、番号交換なんてしたことないわ?

だとすれば、あたしが携帯からかけたって、彼からは知らない番号からで。
いたずらって思うかもしれない。

いや、ここはバイトの静香ちゃんを装って電話すればいいんだ!


やらなきゃいけない事を、ずっと頭に抱えているのは苦手だ。
ためらいが生まれる前に電話番号を押す。

呼び出し音が鳴る間、心臓がドッドッと激しくなる。
やばい、こんなに動悸が激しいの初めて。
死んだらどうしよう。押入れに入れてある昔の日記処分してないわ。

ああもう、出るなら早く出て。
でなきゃ、出ないでよ!

やっぱり切っちゃおうかな。
親父を言いくるめる方がよっぽど簡単だわ。

そう思った時、呼び出し音が途切れた。


『……もしもし?』


いぶかしんでいるようなそんな声音の、初めて電話越しに聞く彼の声。

< 141 / 303 >

この作品をシェア

pagetop