ショコラ~恋なんてあり得ない~
そこまで考えて、彼はあたしの電話番号を知らない事に気付いた。
そうだ。
いつも店で会うからうっかりしてたけど、番号交換なんてしたことないわ?
だとすれば、あたしが携帯からかけたって、彼からは知らない番号からで。
いたずらって思うかもしれない。
いや、ここはバイトの静香ちゃんを装って電話すればいいんだ!
やらなきゃいけない事を、ずっと頭に抱えているのは苦手だ。
ためらいが生まれる前に電話番号を押す。
呼び出し音が鳴る間、心臓がドッドッと激しくなる。
やばい、こんなに動悸が激しいの初めて。
死んだらどうしよう。押入れに入れてある昔の日記処分してないわ。
ああもう、出るなら早く出て。
でなきゃ、出ないでよ!
やっぱり切っちゃおうかな。
親父を言いくるめる方がよっぽど簡単だわ。
そう思った時、呼び出し音が途切れた。
『……もしもし?』
いぶかしんでいるようなそんな声音の、初めて電話越しに聞く彼の声。