ショコラ~恋なんてあり得ない~
3 ケーキの好みは
午後四時を過ぎた頃、マサの彼女である和美(かずみ)ちゃんがやってきた。
「こんにちは」
「あら、いらっしゃい。和美ちゃん」
反射的にそう言った後、後ろにいるはずのマサの方を見ると、とろけそうなほど幸せそうな笑顔で手招きをしている。
うわー、でれでれだ。
しまりがなくて気持ち悪い。
「マサさん、お疲れ様です」
和美ちゃんは、可愛く言うとカウンターの端の席に座った。
控え目で、そこにいるとふんわり優しい気分になる女の子。これが和美ちゃん。
「そうだ、マスターの試作品食べてみてよ。感想聞きたいな」
「わあ、おいしそう」
親父のつくったケーキを、マサのいれたコーヒーと共に出されて、和美ちゃんは嬉しそうに頬を染める。
「おいしい! 甘いのにさっぱりしてますね」
「そうだろう、そうだろう」
今は客がまばらなので、親父まで出てきた。
ケーキをほめられてご満悦なのか、いつになく親父はノリノリだ。
なんとなく会話の輪から外れて、その光景を見やる。