ショコラ~恋なんてあり得ない~
あたしが、和美ちゃんみたいな女の子だったら、きっと親父は嬉しかったんだろう。
ケーキもコーヒーも大好きで。
はにかむ感じが可愛くて、言葉も優しい。
あたしみたいにバリバリは動かないかもしれないけど、お客一人一人に丁寧に応対するであろうあの子になら、安心して店を任せられるだろう。
お気に入りのマサとも結婚してくれそうだし。
「……ちっ」
何だか面白くない。
どうせあたしはこの店には似合いませんよ。
おやつにはケーキよりサキイカが食べたいですよ。
だけどあの子に八つ当たりするのは間違ってる。
だから当たるとしたら親父しかいない!
「さぼってないで、早くカップとか洗いなさいよ!」
カウンター内に入って、小声ながらも厳しく言うと、はじかれたように男二人は動き出す。
それを見て、クスクス笑うのは和美ちゃん。
「詩子さん、かっこいい」
「ありがと。どう? それおいしい?」
「詩子さん食べてないんですか? とってもおいしいです。
くどくないんですよ。甘いのが好きじゃない人でも食べれるかも知れない」
「へぇ」
親父やマサを遠ざけたというのに、なんの疑問も抱かない彼女。
純粋で綺麗な心の持ち主は本当に羨ましい。