ショコラ~恋なんてあり得ない~


あたしはすぐ厨房の方へ向かい、タオルを一枚とコップ一杯の水をとってきた。


「どうぞ」

「あ、ありがと、ございます」


ゴクゴクと音を立てながら水を飲み干す彼をゆっくり眺めていると、店内の奥の方から呼び出しがかかる。


「座って待っててください」


そう言い残し、お客からの注文を聞きに行く。
そして戻りがてら、テーブルの下に落ちていたゴミに気がつき拾って戻る。


「注文です。モンブラン一つ、チーズケーキ一つ、ブレンドコーヒー二つ」

「はい、了解」


手早く動き出すマサ。それを嬉しそうに見ている和美ちゃん。
そしておろおろと、今だ立ちすくんでいるのは無銭飲食&優柔不断な男。


「あのこれ、ありがとうございました」


空のグラスとタオルを差し出し、財布をちらりと見せる。

よしよし、支払いに来たな。
呼び名をただの優柔不断男に格上げしてやろう。

< 20 / 303 >

この作品をシェア

pagetop