ショコラ~恋なんてあり得ない~
「いえ、こちらこそお待たせしちゃって」
にこりと笑って応対。金払いのいい人は好きよ。
しかし彼は、財布の中身には手を伸ばさず、和美ちゃんの食べてるケーキを指差した。
「おいしそうなケーキですね。食べていこうかな」
なんですって。
まだ払ってもいない癖に更に食う訳?
「ああでも、これ試作品なのでまだ売り物じゃないんです。すいません」
「何だ、そうかぁ。お勧めのケーキってありますか」
「そうですね。……お客様の好みによって違うから、何とも言えないです。お好みは?」
「え? ああ、そうだなぁ。俺は甘いのがいいかなぁ。チョコレートも好きだし。甘酸っぱいのも……」
また始まった。
どうしてそんなに優柔不断なんだ。
イライラしているうちに、注文の品が出来上がる。
悩む男を横目に、それをお客様のテーブルまで運んだ。
戻ってきても、まだ男はメニューとにらめっこ。
もう、ばっかじゃないの。
そんなに悩むくらいなら食うなよ。