ショコラ~恋なんてあり得ない~



「さっきのお詫びです。どうぞ召し上がってください」


鍋の準備をしつつ、そう言ってくれる店員さんに怒りが緩んできた。

結構いい人そうね。笑顔もさわやかだし。
何より、あたしの大好きなナスを持ってきてくれたんだもの。

あたしも単純なものだ。
すっかり気を良くして、会話をしていたらなんとなく盛り上がってしまった。

店員さんがようやく戻って行ったころ、母さんがニヤニヤと笑う。


「あの子中々可愛いでしょ。詩子、彼氏いないんなら狙ってみれば?」

「え? いや。いいわよ。彼氏はいないけど……」

「あら、そうなの?」


意外ね、という感じで顔を見られる。

なんか悔しいな。
悪かったわね、彼氏が居なくて。

ニヤニヤ見てられると居心地が悪い。
話題が悪いんだわ。ちょっと話を変えないと。
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