ショコラ~恋なんてあり得ない~


「悩むくらいなら、毎日1つずつ食べたらどうです? いつかは自分好みのに出会えるかも知れませんよ」


ポツリと、本音が飛び出す。
とはいえ『ショコラ』のウェイトレスである詩子さんには似合わないセリフだから小声で。

だけど彼はハタとメニューから顔をあげて、あたしの顔を凝視した。


あら。聞こえたかしら。

本来お客様にこんなことは言いたくないんだけれどね。

でも、もうどうでもいいって気分にもなってた。
ものすごく苛つくんだものあなた。

何かにつけて悩みやがって。
そんな暇あったら窓掃除の一つもできるでしょ?
もう本能的にキライ。


驚愕の表情でこちらを見ていたその男は、不意にその目尻を下げてにこりと笑う。


「それもそうですね!」

「はぁ?」


ちょっと待った。
あたしのアレは嫌味ですけど。
何素直に喜んでるのよ。


「じゃあこの一番上のショートケーキください」


そう言って、ようやくカウンターに座る。

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