ショコラ~恋なんてあり得ない~
「さあ、詩子、食べるわよ。これ全部空にしないと帰れないわよ!」
「う、うん! よし、食べる!」
勢いよく鍋を食べ終わった頃には、お腹ははちきれそうになっていた。
「またいらしてください」
先ほどの店員さんが深々と頭を下げてくれる。
母さんは、にやりと笑って、「ホラ彼、アンタに気がありそうよ」なんて呟くけど。
見た目だけで気を持たれても嬉しくないってば。
駅までの帰り道、ぬるい夜風をうざったく感じながら、あたしは母さんにポロリと言ってみた。
「彼氏、はいないけど。……好きな人は出来たの」
「へぇ。どんな人?」
好きな曲を聞くくらいの軽さで、母さんは質問を返す。