ショコラ~恋なんてあり得ない~
途中乗り換えて最寄駅で降りると、親父が壁に寄りかかるようにして立っていた。
妙に格好つけたポーズが気に入らないな。
シカトしようか。
そう思って脇をするりと通り抜けると、情けない声が追いかけてきた。
「詩子ぉ、無視するなよ」
「変な格好で立ってるからでしょ。迎え要らないって言ったじゃないの」
「行くって言っただろ」
押し問答をいつまでもしていても仕方ない。
あたしは隣に並んで歩きだした。
街灯が落とす影が長くのびる。
こうして見ると親父は背が高いのよね。
あたしも低い方じゃないけど、影にして三十センチ、
実際には十五センチほどの差がある。
「康子さん、何だって?」
「んー、再婚するって」
「相手の事なんか言ってたか?」
「凄い若いって事くらいかな。三十二歳」
「俺が聞いたのと一緒くらいか」
最後の言葉と一緒に、長い溜息が吐き出される。
見るからに落ち込んでいて、ちょっと痛々しいかも。