ショコラ~恋なんてあり得ない~
今はテーブル客が二組。
どちらももう注文の品は出してしまったから、しばらくはいいし。
カウンターに和美ちゃんはいるけど、優柔不断男の前で気軽に話すのも嫌だし。
コイツからはお金の取り立てもしなきゃいけないけど、ケーキを食べるって言うんじゃそれが終わるまで待たなきゃいけないし……。
やがて注文の品が揃う。
あたしは目で合図してそれをマサに出させた。
「お待たせしました」
「うわぁ、おいしそうだなぁ」
男は嬉しそうにそういうと、マサに向かって話しかける。
「こちらのケーキはどなたが作ってるんですか?」
「ああ、主にマスターが。そこのウェイトレスの父親なんですよ」
「ちょ、マサ、余計なこと……」
言わないで。
それを口に出す前に、男と視線が合う。
「ここの娘さん?」
「え、あ、まあ」
「そうかぁ。親子で切り盛りしてるんですね。いいなぁ。じゃあいずれはここを継ぐんだ?」
「どうかしら」
ああ何だか、話が突っ込まれたくない領域に入ってきた。