ショコラ~恋なんてあり得ない~
男はフォークで一口分のケーキを切り分け、口に入れる。
もぐもぐと動く口元が何だか間抜け。
顔のつくりでいけば彼はそんなに悪くない。
文化系のイケメンを少し崩した感じだろうか。
だけど、なんだろうこの冴えない雰囲気は。お陰で格好良さは二割減ってとこだ。
そうね。
あえて言うならユルいのよ。
この男はユルユルなのよう!!
あたしの思惑なんか知りもせず、彼は味わうようにケーキを頬張る。
「ここのケーキは本当に美味しいですよね。何度でも来たくなるなぁ。ああ。いいなぁ」
そんなにケーキが好きなのか。
じゃあ毎日でも食べにこればいいわよ。こっちも助かるわ。
あなたの顔見ると若干苛立ちはするけど、お金だと思えば我慢出来る。
しかし、次に男から出てきた言葉は、あたしの予想から外れたものだった。
「将来……。先が決まっているってのはいいなぁ」
「はぁ?」
思わず、笑顔を忘れて彼の顔を凝視する。
なんて、無神経なことを言うのだろう。
そのままコーヒーを飲み始める男の頭に、お盆をぶつけてやりたかった。
親の跡を継ぐのが幸せだなんて誰が決めたよ。
あたしがどんな気持ちでここにいるのか。
アンタなんて知る由もない癖に、適当なこと言うんじゃないわよ。