ショコラ~恋なんてあり得ない~
「あのバカ親父!」
「あはは。マスター、窓ふきしてるね。仕事熱心だねぇ」
「違う!」
こののほほんめ!
「もう、戻るわ。あたしも仕事中だった」
「うん。抜けだしてきてくれたんだね。ごめん」
「良いわよ。でもこの貸しは大きいわよ。試験終わったら、ちゃんとあたしの相手してよね」
「分かってる。詩子さん好きだよ」
耳まで赤くなりそうだけど、親父に見られてるかと思うとにやけた顔はしたくない。
「じゃあね。明日頑張って!」
「うん。じゃあね」
店に入る直前、窓越しに親父を睨みつける。
親父はビビったようにあたしを見たかと思うと、さっさと厨房の方へ戻っていった。
振り返るとまだ、宗司さんがあたしを見ていたから、小さく手を振った。
もう明日も彼が来るかどうかを、心配しなくてもいい。
彼もあたしを好きだと言ってくれたもの。
明日の試験が心配ではあるけど、浮き立つ心は止められない。
あたしも、宗司さんが大好きよ。