ショコラ~恋なんてあり得ない~
あたしの静かな怒りを最初に察知したのは、やはり付き合いの長いマサ。
目が合うと、慌てて自分の目を指差す。
あぁ?
目つきが悪いって?
仕方ないでしょ。だって我慢が出来ないほど苛々する。
それってあたしのせい?
違うわ。
こんな無神経なことを、のへっとした顔でいうこの男が悪いのよ!
目つきを指摘しても、ますます苛立ちを募らせるあたしに、マサは判断を変えたらしい。
優柔不断男に向かって口の前でばってんを作った。
「え?」
意味が飲み込めないのか、彼は何度もマサを見て、そしておもむろにあたしの方を向く。
ここは店。
わかってる、わかってる。
そしてあたしは店員。
だから我慢しなきゃいけない。
知ってるわよ。
でも。
理解してても感情が暴発する事はあるのよね!
「……じゃないわよ」
「あ、あの」
「適当なこと言ってんじゃないわよ」
一応笑顔は作ってる。お得意のお愛想スマイル。
それはあたしの店員としてのプライドのなせる業。
けれど口元はひきつってるし、声はいつものアルトからテノールまで下がってる。
「お帰りはあちらになります」
凄味のきいたあたしの声に、彼は食べかけのケーキをそのままに、怯えたように立ち上がる。