ショコラ~恋なんてあり得ない~
「す、すいません。僕、なんか」
「いいから、早く帰ってください。危険ですよ」
マサの野郎。余計な事ばかり言いやがるわ。
「す、すいません。お金、おいて行きます」
そういって、彼はカウンターにお札を数枚置くと、そそくさと逃げて行った。
じっと睨んでいると何度も振り返る。
目をそらしたら負けのような気がして、彼の姿が小さくなるまで見続けた。
「ハン、根性無し」
後姿にそう呟く。もちろん小声でだけど。
それに重なるように降ってくるのは、マサの諌めるような声。
「……詩子」
「だって」
「一応お客だろ」
「でもさっきは踏み倒したじゃないのよ」
「今度は置いて行った」
マサが千円札を三枚ひらひらとさせる。
「しかもお釣りを渡してない」
「あ」
「後で、詩子が届けに行けよ。連絡先きいてんだろ?」
「……マジで?」
「マジで」
手に乗せられた三千円が、逮捕状のように見える。
なんてことをしてしまったんだ、あたし。