ショコラ~恋なんてあり得ない~


「すいませ……」


「勝手なことしては困るんだよ!!」


その途端響いたのは、ドスのきいた年配の男の人の声。
その前には、あの優柔不断男が情けない顔で頭を垂れている。

他に生徒は、いない。

なんだやっぱり今日はお休みだったの?

びっくりして立ちすくむあたしに気付いたおじさんが、途端に笑顔を作って一歩前に出る。


「あ、……すいません、今日はお休みなんですが。ええと、ご用件は」

「いえ、ちょっと。……道を聞きたかっただけで。良いんです、すいません」


驚いたようにこっちを見る優柔不断男から目を離せずに、口だけは咄嗟に嘘を紡ぎだす。
客商売に慣れてるって素晴らしい。

ドキドキしながら扉を閉め、なんとなく近くの電信柱に背中を預けた。


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