ショコラ~恋なんてあり得ない~

 しばらくすると、塾の扉から人が出てきた。

肩を落とした姿がいかにも情けない。……あの人だ。

彼は、辺りに聞こえるほど大きな溜息を一つつき、きょろきょろと首を動かしながら歩きだした。

そのうちにあたしを見つけて、迷いもなくこちらに向かってくる。

その動きに、ビックリしたのはあたしの方だ。

だって、会うのは気まずいでしょって考えてたところだったのに、迷いもなくこっちに来るってどういうこと?

しかも、なんでそんな嬉しそうな顔で近づいてくるの?

どんな顔で迎えればいいのかがさっぱりわからない。

 あと一メートルというくらいまで近くに来たところで、彼は立ち止まった。
近くに人が来ると条件反射のようにあたしは挨拶してしまう。


「こ、こんにちは」

「ごめんね。さっき、俺に会いに来たんじゃないの? 変なところ見せてしまって申し訳なかった」

「い、いえ」

「それに、喫茶店では失礼なことを言っちゃったみたいで」


なんで先に謝られてるの、あたし!


< 34 / 303 >

この作品をシェア

pagetop