ショコラ~恋なんてあり得ない~
しばらくすると、塾の扉から人が出てきた。
肩を落とした姿がいかにも情けない。……あの人だ。
彼は、辺りに聞こえるほど大きな溜息を一つつき、きょろきょろと首を動かしながら歩きだした。
そのうちにあたしを見つけて、迷いもなくこちらに向かってくる。
その動きに、ビックリしたのはあたしの方だ。
だって、会うのは気まずいでしょって考えてたところだったのに、迷いもなくこっちに来るってどういうこと?
しかも、なんでそんな嬉しそうな顔で近づいてくるの?
どんな顔で迎えればいいのかがさっぱりわからない。
あと一メートルというくらいまで近くに来たところで、彼は立ち止まった。
近くに人が来ると条件反射のようにあたしは挨拶してしまう。
「こ、こんにちは」
「ごめんね。さっき、俺に会いに来たんじゃないの? 変なところ見せてしまって申し訳なかった」
「い、いえ」
「それに、喫茶店では失礼なことを言っちゃったみたいで」
なんで先に謝られてるの、あたし!