ショコラ~恋なんてあり得ない~
「ち、違います。いや、違くは無いけど。や、もう、だからえっと!」
何が言いたいんだ、あたし!!
「お釣りを返しに来たんです。はい!」
一杯の小銭を握り締めた手を、まっすぐに伸ばした。
彼はキョトンとした顔をして、ゆっくりと視線をあたしの顔から手にうつす。
「ああ」
そう言って、ようやく掌を差し出した。
あたしの手からぱっと離れた小銭が、五センチほど下で開かれた掌の上に落ちる。
合計十枚のコイン。
こんな渡し方すれば一枚くらい落ちるかと思ったのに、彼の手はぜんぶ受け止めた。
その手の大きさに、なぜだか心臓が大きく揺れ、彼が男の人だということを改めて意識した。
「ありがとう。わざわざ持ってきてくれて。またケーキ食べに行こうと思ってたから、良かったのに」
「な、ならちゃんとそう言ってから置いていってください」
「うん。ごめん。えっと、詩子さんだっけ?」
「なんで」
「あのカウンターの彼が呼んでたから。合ってる?」
「合ってます。えっと……」
名前なんだっけ、この人。
名刺に書いてあったんだけど、忘れちゃったな。